フルスクラッチのECサイトが向いている企業と不向きな企業の特徴

フルスクラッチのECサイトが向いている企業と不向きな企業の特徴

ECサイトを構築する手段の1つである「フルスクラッチ」での開発は、独自の機能やサービスを実現できるなど"開発の自由度が高い"ことがメリットです。

一方で、莫大な開発コストがかかるほか、システムの保守や改修、セキュリティ対策などの難しさもあり、全てのEC事業者にとってベストな選択肢とは限りません。

本稿では、フルスクラッチのメリット・デメリットや注意点などを踏まえ、フルスクラッチに向いている企業と不向きな企業の特徴を解説します。

ECサイトの開発方法を選ぶ際にフルスクラッチと比較されることが多いECパッケージとの違いについても、比較表などを使って分かりやすく説明しますので、ECサイトの新規立ち上げやリニューアルを検討している方は、最適な開発手法を選ぶための判断材料としてご活用ください。

フルスクラッチの特徴・費用・導入状況

ECサイトの「フルスクラッチ」とは、ECパッケージやSaaS型のECプラットフォームなどを使わずに、独自のECシステムをゼロから開発・構築することを指します。企業ごとのビジネスモデルや運用フローなどに最適化した、その企業にとって理想のECサイトを構築できるのが特徴です。

ECサイトのフルスクラッチ開発は次のような流れで進みます。

  1. 要件定義:ECサイトの仕様や機能を決定
  2. 設計:ECサイトのUI、管理画面、データベースなどを設計
  3. 開発:フロントエンド、バックエンドの開発、および外部システムとのAPI連携
  4. テスト運用:稼働の検証、ユーザーテスト
  5. 運用開始後:セキュリティ対策、サーバ管理、保守・改修、機能追加

※上記と並行してコンテンツ制作・ささげ・商品登録といった売場づくりを行います

開発期間は半年以上、初期費用は数千万〜数億円

フルスクラッチの開発期間は、要件定義に着手してからECサイトをオープンするまで、一般的に半年以上かかります。大規模なシステム開発では数年がかりのプロジェクトになることも珍しくありません。

初期費用は幅がありますが、一般的に最低でも数千万円、プロジェクトの規模によっては数億円から十数億円に上るケースもあります。ECサイトが稼働を開始した後は、システムの保守や障害対応、セキュリティ対策、サーバ管理などのランニングコストが発生します。

フルスクラッチの注意点:予算を抑えるとメリットが失われる

フルスクラッチは莫大な初期費用がかかるため、コストを抑えるために、要件定義の段階で機能の絞り込みを検討する場合があります。しかし、予算や開発期間などの制約で機能を絞り込むと、開発の自由度が高いというフルスクラッチのメリットが失われ、理想とは程遠いECサイトになってしまうことがあります。コストをかけた割には、ECパッケージやSaaS型のECプラットフォームで構築したECサイトと、それほど違いがなかったという失敗例も少なくありません。

フルスクラッチという手法は、多額の投資を行う覚悟が求められるとともに、その投資に見合うビジネスモデルを構築できることが前提になります。

フルスクラッチの導入状況

フルスクラッチは大規模なECサイトに適した開発手法です。国内企業では、「ユニクロ」を展開するファーストリテイリングや、「ZOZOTOWN」を運営するZOZOなどがシステム開発を内製化しています[※1]

大企業であっても、全ての企業がフルスクラッチを選択しているわけではありません。ECシステムの導入状況に関する調査[※2]によると、エンタープライズ企業の27.4%がECサイトの構築方法を「フルスクラッチ開発」と回答しています。なお、エンタープライズ企業が採用している開発手法で、最も多いのは「パッケージ型」(34.7%)でした。

[※1]出典:株式会社ZOZO「グローバル統一デジタルコマースの基盤を自社で開発。全世界への展開を進める / 業務遂行に不可欠な基幹システム。歴史あるシステムをモダンな技術で置き換えるエンジニアの喜びとは」2023年2月

[※2]出典:株式会社SUPER STUDIO プレスリリース「【SUPER STUDIO 調査レポート】 大企業のSaaS導入に関する意識・実態調査を発表」2023年9月

フルスクラッチのメリット・デメリット

フルスクラッチのメリットは開発の自由度が高いことです。具体的には「業務プロセスに最適化した機能を実装できる」「独自のサービスを実現できる」「機能追加や外部システムとの連携を柔軟に行える」「サーバースペックやインターネット通信回線などのインフラを選べる」といったメリットがあります。一方、デメリットは「開発コストが高い」「開発期間が長い」「高度な知見が必要」といったことが挙げられます。

【メリット】

  1. 業務プロセスに最適化した機能を実装できる
  2. 独自のサービスを実現できる
  3. 機能追加や外部システムとの連携を柔軟に行える
  4. 規模に合わせたインフラを選べる

【デメリット】

  1. 開発コストが高い
  2. 開発期間が長い
  3. 高度な知見が必要

フルスクラッチのメリット

業務プロセスに最適化した機能を実装できる

自社の業務プロセスに最適化した機能や、業務に携わるスタッフが使いやすい管理画面などを、柔軟に設計・実装できます。在庫管理における最小の管理単位である「SKU」(Stock Keeping Unit)単位での在庫管理、複数の物流拠点からの発送、温度帯ごとの同梱制御、店舗受取、返品対応など、複雑な商品管理にも対応可能です。

独自の機能やサービスを実現できる

独自の機能やサービスを実現するために、特殊なシステム開発が必要になるケースではフルスクラッチが有効な手段になります。例えば、全国に多数の実店舗を持つ小売チェーンが、自社開発した基幹システムや倉庫管理システム、POSなどとECサイトを連携して、オンラインとオフラインとの購入体験をつなぐマーケティング手法である「OMO」を推進するといった場合です。

機能追加や外部システムとの連携を柔軟に行える

フルスクラッチのECサイトは、市場環境の変化や顧客ニーズに合わせて柔軟に改修できます。機能追加の制限を受けないほか、例えばECサイトの表示スピード高速化やSEOなどはソースコードの修正に踏み込んで対策することが可能です。また、マーケティング・オートメーションやCRM、倉庫管理システムといった外部システムとのAPI連携の自由度が高いこともメリットです。

フルスクラッチのデメリット

開発コストが高い

フルスクラッチ開発でECサイトを構築するための初期費用は一般的に数千万〜数億円に上ります。運用開始後もシステムの保守・改修、サーバ代、セキュリティ対策、バージョンアップなどのランニングコストがかかります。

開発期間が長い

ベンダーの選定から商談、要件定義、設計、開発、テスト運用など、ECサイトをオープンするまでに実施すべき業務が多く、プロジェクトのキックオフからECサイトのオープンまで1年以上かかることも珍しくありません。市場環境の変化が早い現在のEC市場では、開発中に必要な要件が変わったり、機能が陳腐化したりするリスクがあります。

高度な知見が必要

フルスクラッチに求められるスキルはプログラミングやコーディングだけではありません。業務フローを理解した上での要件定義、ユーザビリティを考慮したUIデザイン、基幹システムやWMS(Warehouse Management System、倉庫管理システム)といったEC以外の領域との連携開発、サーバやネットワークなどインフラ管理の技術、サイバー攻撃からシステムを守るセキュリティ対策の見識など、必要な知見は多岐にわたります。

中途半端な開発体制や、準備不足の状態でプロジェクトが動き出してしまうと、ECサイトの品質や納期、開発コストなどに悪影響が出る可能性があり、最悪の場合はプロジェクトそのものが頓挫することがあります。

フルスクラッチを検討するタイミング

ECサイトを運営していると、ビジネスの成長に伴って既存のECシステムでは対応しきれない課題に直面することがあります。特にSaaS型のECプラットフォームは、立ち上げが容易である反面、システムの拡張性や運営の自由度に制約があることから、売上拡大のボトルネックを解消するためにリプレイスを検討する必要が出てきます。

また、ECサイトのUX改善を迅速に行いたい場合や、マーケティング施策のPDCAサイクルを高速に回したい場合も、機能追加やシステム改修を柔軟に行えるフルスクラッチが選択肢になります。

フルスクラッチを検討するタイミング

  1. 売上をさらに伸ばすために、SaaSやクラウドのシステムから移行したい
  2. UX改善やマーケティング施策のPDCAサイクルを高速で回したい

フルスクラッチに向いている企業の特徴

これまでに解説したフルスクラッチのメリット・デメリットや注意点を踏まえ、フルスクラッチに向いている企業と不向きな企業の特徴を解説します。

フルスクラッチに向いている企業の特徴は次のようなものがあります。これらの条件を全て満たしている場合はフルスクラッチが有力な選択肢になります。

  1. システム開発部署(エンジニアチーム)がある
  2. 開発コストの回収が見込める
  3. 作りたいECサイトの要件が特殊

システム開発部署(エンジニアチーム)がある

ECシステムの開発や運営を担うプロジェクトリーダーとエンジニアチームが社内に必要です。フルスクラッチのシステム開発を外部に丸投げすると、システムの改修や機能追加などを行う際のスピードは、ベンダー側の開発リソースに依存することになります。その結果、マーケティング施策のPDCAサイクルを高速で回せなくなるなど、フルスクラッチのメリットを十分に享受できないリスクが高まります。

ECサイトのフルスクラッチ開発を成功に導くには、システムの開発や保守・改修などを内製化できる社内体制が不可欠です。

開発コストの回収が見込める

フルスクラッチは莫大な初期費用がかかるほか、ECサイトの運用開始後もシステムの保守や改修、セキュリティ対策、サーバ管理などの費用がかかります。フルスクラッチ開発を検討する際は、システム開発にかかる初期費用とランニングコストを試算した上で、コスト回収にかかる年数を精査し、投資対効果を慎重に見極めることが重要です。

作りたいECサイトの要件が特殊

業界特有の商習慣にあわせた機能や、その企業ならではのサービスなど、特殊なシステム要件が数多くある場合にはフルスクラッチが有効です。特に、ECパッケージの標準機能でカバーできない特殊な機能を複数実装する場合や、基幹システム・POS・WMS・ERP・CRM・各種データベースなど複数の外部システムとECサイトを連携する場合には、ECパッケージをカスタマイズするよりもフルスクラッチでゼロから設計したほうが低コストになる場合があります。

フルスクラッチに不向きな企業の特徴(ECパッケージ向きの企業)

上記で挙げた「システム開発部署(エンジニアチーム)がある」「開発コストの回収が見込める」「作りたいECサイトの要件が特殊」という3つの条件を全て満たしている企業以外は、フルスクラッチに不向きと言えます。

特に、システム開発や保守・改修、セキュリティ対策などの内製化が難しい企業や、初期投資や開発期間を抑えつつECサイトの機能に独自性を持たせたい場合には、カスタマイズ可能なECパッケージが候補になります。

近年はECパッケージが進化しており、従来であればフルスクラッチでしか実現できなかったような機能を標準機能でカバーしている製品も出てきています。標準機能でカバーしていなくても、カスタマイズできるECパッケージであれば、パッケージベンダーの開発力次第でフルスクラッチと同等の機能を実現可能です。

参考情報としてフルスクラッチとECパッケージ、SaaS型の比較表を作成しました。初期費用や開発期間などは目安ですが、比較検討の参考にしてください。

フルスクラッチ、ECパッケージ、SaaS型の比較表

フルスクラッチを選ぶ理由を明確にする

本稿で解説したように、フルスクラッチはECサイトに独自の機能やサービスを実装できるといったメリットがある一方で、莫大な投資がかかることや、開発体制の内製化が必要になるなどハードルが高い手段でもあります。自社のビジネスモデルや売上規模、収益性などを踏まえて、フルスクラッチが最適な開発手法であるか否かを慎重に判断してください。

もし、フルスクラッチを検討している理由が「理想のECサイトを実現したいから」といった漠然としたものであるならば、一度立ち止まって、ECパッケージで代替できる可能性について検討してみてください。

またECシステム・ベンダーの選び方については、イーコマブログの別記事で詳しく解説しています。こちらの記事も参考にしてください。

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ECベンダー・システムの選び方【すぐ使えるチェックリスト付き】

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ECシステムのベンダー候補を絞り込むための「ベンダー比較表」やベンダーを選ぶ際の「チェックリスト」の作り方を解説します。

ECパッケージ「HIT-MALL」という選択肢

最後に、フルスクラッチの代替手段として検討していだたくことも多いECパッケージ「HIT-MALL」を紹介します。

「HIT-MALL」は、ECサイトの構築や運営を20年以上にわたって手がけてきたアイテック阪急阪神が提供しているECサイト構築・運営支援サービスです。

多くのEC事業者に共通して必要なコア機能を標準搭載しているほか、EC事業者ごとの要望やビジネスモデルにあわせてシステムをカスタマイズすることも可能です。アイテック阪急阪神が蓄積してきたECの成功ノウハウをベースに、クライアントの"理想"と、コストや開発期間という"現実"のバランスを取りながら、最適なECサイトを実現します。

「HIT-MALL」はシステム開発や保守・改修だけでなく、ECサイトのコンテンツ制作や受注対応、デジタルマーケティングなど運用も含めてご支援し、EC事業者の成功に伴走いたします。

ECサイトの立ち上げやリニューアルを検討中で、フルスクラッチとECパッケージで迷っている方は、お気軽にご相談ください。

HIT-MALL

ECサイト構築パッケージをベースとしたEC構築・運用サービス「HIT-MALL」の製品紹介資料を以下フォームよりご請求いただけます。

FAQ

Q1: フルスクラッチECサイト開発とは何ですか?

A1: フルスクラッチとは、ECパッケージやSaaSを使わず、独自のECシステムをゼロから開発することです。企業独自のビジネスモデルや運用フローに最適化したECサイトを構築できます。

Q2: フルスクラッチ開発のメリットは何ですか?

A2: 最大のメリットは開発の自由度が高いことです。具体的には以下の点が挙げられます:
・業務プロセスに最適化した機能実装:複雑な商品管理や、スタッフが使いやすい管理画面など。
・独自のサービス実現:特殊なシステム開発や、既存基幹システムとの連携が必要な場合に有効。
・機能追加や外部連携の柔軟性:市場変化への対応、SEO対策、MA/CRM/WMSなどとのAPI連携が自由。
・規模に合わせたインフラ選択:サーバースペックなどを自由に選べる。

Q3: フルスクラッチ開発のデメリットは何ですか?

A3: 主なデメリットは以下の3点です:
・開発コストが高い:初期費用に加え、運用開始後の保守・改修、サーバー代、セキュリティ対策などのランニングコストも発生します。
・開発期間が長い:半年以上、大規模では1年以上かかることもあり、開発中に要件が陳腐化するリスクも。
・高度な知見が必要:プログラミングだけでなく、要件定義、UIデザイン、外部連携、インフラ管理、セキュリティ対策など多岐にわたる専門知識が求められます。

Q4: フルスクラッチ開発にかかる費用と期間はどれくらいですか?

A4:
・開発期間: 要件定義からオープンまで半年以上。大規模開発では数年かかることもあります。
・初期費用: 最低でも数千万円、規模によっては数億円から十数億円に上るケースもあります。
・ランニングコスト: 稼働後も保守・障害対応、セキュリティ対策、サーバー管理などの費用が発生します。

Q5: どのような企業がフルスクラッチ開発に向いていますか?

A5: 以下の3つの条件を全て満たしている企業に有力な選択肢です:
・システム開発部署(エンジニアチーム)がある:開発や保守・改修を内製化できる体制が不可欠です。
・開発コストの回収が見込める:莫大な初期投資とランニングコストに見合うビジネスモデルがあることが前提です。
・作りたいECサイトの要件が特殊:業界特有の機能や、多数の外部システムとの連携が必要な場合など。フルスクラッチは、大規模なECサイトに適した開発手法とされています。

Q6: どのような企業がフルスクラッチ開発に不向きですか?

A6: 上記Q5で挙げた3つの条件を全て満たしていない企業はフルスクラッチに不向きです。特に、システム開発や保守・改修を内製化することが難しい企業や、初期投資や開発期間を抑えたい企業には向きません。

Q7: フルスクラッチを検討するタイミングはどんな時ですか?

A7: 以下の課題に直面した場合が考えられます:
・ビジネス成長に伴い、既存のECシステム(特にSaaS型)では対応しきれない売上拡大のボトルネックを解消したい場合。
・ECサイトのUX改善を迅速に行いたい、またはマーケティング施策のPDCAサイクルを高速で回したい場合。
ただし、「理想のECサイトを実現したい」といった漠然とした理由の場合は、ECパッケージでの代替も検討すべきです。

Q8: フルスクラッチ以外のECサイト構築方法にはどのようなものがありますか?

A8: フルスクラッチと比較されることが多いのは、ECパッケージやSaaS型のECプラットフォームです。近年、ECパッケージも進化しており、カスタマイズによりフルスクラッチ同等の機能を実現できる製品も登場しています。