
自社ECサイトを新たに立ち上げる際や、ECサイト構築システムをリプレイスするときに、どのような判断基準でシステムやベンダー(システムの提供やサイト構築をおこなう会社)を選べば良いか迷うこともあるのではないでしょうか?
ベンダー選びで失敗しないためには「提案依頼書(RFP)」を不備のないように作成することが重要です。また、条件に合ったベンダーの候補を絞り込むために「ベンダー比較表」を作ることも欠かせません。
「ECサイト構築の経験がなく、RFPの作り方が分からなかった」「システムの機能一覧を見て、使いたい機能はすべて実装されていると思い込んでしまった」「ベンダーの営業担当者の説明を鵜呑みにして契約してしまった」
こういった理由でRFPを作成しない、もしくは十分に精査できていないRFPをもとに安易にベンダーを選ぶのは失敗のもと。売れるECサイトを構築するには、目的を明確にし、実現したいことや必要な機能の優先順位を整理した上で、ベンダーを吟味することが大切です。
そこで今回は、自社ECサイトを構築するときによくある失敗を踏まえ、自社に合ったベンダーを選ぶための「RFP」と「ベンダー比較表」の作り方とチェックポイントを解説します。
実現したいECサイトを明確にしてからRFPを作成する
ECパッケージシステムやオープンソース、フルスクラッチなどで自社ECサイトを構築する場合、まずはRFPを作成し、ECサイトの提案と見積をベンダーに依頼します。
RFPにはプロジェクトの全体像や目的、必要な機能、予算、スケジュール、連携したい外部システムやツールなどを記載します。
RFPを作成する上で特に重要なのは、「どのようなECサイトを作りたいか」を自社の中で明確にすること。次の3つの項目は必ず整理してください。
RFP作成において整理すべき3項目
- ①ECサイトのコンセプトや「~年目までに売上○円、会員数○件」などの達成目標
- ②自分たちがやりたいことを実現するために必要な機能(機能要件)
- ③開発体制やサポート体制、セキュリティなど、機能以外にベンダーに求めるもの(非機能要件)
これらが曖昧なRFPでは、ベンダーから提示される見積も不正確なものになります。そして、ベンダーと契約して要件定義に進んだ段階で、追加の開発が必要なことが判明し、開発費用が当初の見積を大幅に超えてしまうという失敗も決して珍しくはありません。
こうした失敗を防ぐためにも、ベンダーに問い合わせる前に「ECサイトのコンセプト・ゴール」「機能要件」「非機能要件」を必ず社内で整理しておきましょう。
プロジェクトの作業スコープを図式化し全体像を把握する
RFPを作る際は、まずプロジェクトの範囲(スコープ)を図式化します。ここで全体像を把握しておくことで、プロジェクト開始後の機能追加や追加費用の発生を防ぐことができます。開発するシステムの範囲、必要な機能、基幹システム・決済代行システム・物流システムとの連携、BI・MA・レコメンドなどの外部ツールとの連携など、プロジェクトの全体像を漏れなく記載してください。

プロジェクト範囲 スコープ図
すぐ必要な機能と将来必要な機能を整理する
ECサイトに実装したい機能(機能要件)をリストアップするときは「すぐに必要な機能」と「将来的に実装したい機能」の2種類に分けると、機能の優先順位が明確になります。
1.実装したい機能の優先順位を明確にする
EC事業に対するモチベーションが高いEC事業者ほど、実装したい機能がたくさんあるでしょう。しかし、予算や開発期間が限られているプロジェクトでは、すべての機能を実装できるとは限りません。
機能の優先順位を決めておくことで、必要性の高い機能はECサイトのオープン時点で実装、優先度の低い機能はあらためて開発予算を確保して実装するなどの長期的な開発計画を立てやすくなります。一度の開発ですべての機能を実装できないのであれば、将来的な開発計画を見据えてRFPを作成すると、必要性の高い機能と開発予算のバランスが取れたECサイトを実現しやすくなります。
2.既存の機能やサービスの廃止も検討する
すでに稼働中のECシステムがある場合は、既存のECサイトに備わっている機能をリストアップした上で、それらはリプレイス後も必要なのか、廃止してもかまわないのかを精査してください。
3.将来の構想に合わせたシームレスなサービス拡張が可能かを検討する
将来的に実装したい機能や取り組みたいサービスを明確にしておくと、将来のサービス拡張や事業拡大にかかるコストを減らせるメリットもあります。
例えば、将来の構想として「実店舗とECサイトを連携してオムニチャネルを実現したい」「運営中の既存のネットショップと顧客情報を連携させたギフト専用のネットショップを作りたい」「複数のショップを出店してモール化したい」といった計画があるなら、それらを実現できる拡張性の高いシステムを最初から導入しておけば、将来はリプレイスすることなく新しいサービスや事業を始めることができます。
システムのリプレイスには多くの費用と手間がかかるので、先々まで見越して必要な機能を整理しておきましょう。
ECサイトの機能拡張やカスタマイズの必要性を検討する
ECサイトは「構築したら終わり」ではありません。リリース後もシステム改修や外部ツールとの連携を行い、機能を拡張するのが一般的です。
ネットショップを運営していると、やりたいことや必要な機能は次々と出てくるものです。ECの売上規模によって必要な機能は異なりますし、商品カテゴリを追加したり、新しい売り方を始める際にシステムのカスタマイズが必要になるかもしれません。
また、ECの集客手法やマーケティングなどの技術は日進月歩で、消費者が使うSNSなどのサービスも時代とともに変わります。こうしたトレンドの変化に対応するには、ECシステムの機能拡張やカスタマイズも必要でしょう。
EC事業の成長フェーズやトレンドに合わせて機能を追加・拡張したいのであれば、カスタマイズが可能なECサイト構築システムを最初から選んでおくと、後々になってシステムをリプレイスするコストと手間を省くことができます。
ベンダーを選ぶ前に、将来的にカスタマイズが必要になりそうかを検討し、もし必要になりそうなら「機能の拡張性」や「カスタマイズの自由度」といった判断軸をベンダー選びの基準に加えてください。
MAやBIなど使いたい外部ツールをリストアップ
マーケティング・オートメーション(MA)やビジネス・インテリジェンス(BI)などの外部ツールをECサイトに導入しているケースがほとんどでしょう。
外部ツールを導入するには、ECサイトの受注データや顧客データなどをツールと連携させる必要があります。どのデータを使い、どういった連携を想定するかによってECサイト構築の見積も変わってくるため、使いたい外部ツールは漏れなくRFPに記載してください。
ECサイトの運用に必要なサーバ環境の確認
ECサイトを稼働させるためのサーバの運用管理をどこが行うかも重要です。ベンダーに任せるのか、自社のサーバを使うのか、あるいはAWSのようなパブリッククラウドを使うのか、事前に情報システム部門への相談も必要になってくるでしょう。
ベンダーによってはサーバが指定されることもありますし、逆に柔軟に対応してくれるベンダーもいます。
EC事業者が基幹システムなどで使っているサーバがあり、ECサイト構築システムも共通のサーバを使いたいといった要望がある場合には、サーバ環境を自社の要件に合わせて構築できるかベンダーに確認しましょう。
ネットショップの運営業務を委託するか検討する
ECサイト構築システムのベンダーの中には、ネットショップの受注管理やコンテンツ制作、顧客対応、商品登録といった運用業務を代行してくれる会社もあります。社内のリソース不足など運用業務のアウトソーシングを検討している場合は、その旨もRFPに記載すると良いでしょう。
業務設計に不安があればベンダーに協力を依頼する
ECサイト構築システムをリプレイスすると、ネットショップの商品登録や問い合わせ対応といった運用業務のフローが変わることも少なくありません。
誰が、どの業務を、どのように進めていくかを決定する「業務設計」は、原則としてEC事業者が行います。ただ、システムの操作マニュアルを作ったベンダーにも業務設計に協力してもらうことで、ネットショップの運営業務を効率化できることもあります。
ECサイト構築システムのリプレイスが初めてだと、業務設計の進め方に不安があるかもしれません。また、移行先のECサイト構築システムの細かい仕様を理解できず、業務設計に漏れがないか心配な場合もあるでしょう。
業務設計を社内だけで行うことに不安がある場合には、業務設計をベンダーにも協力して欲しいという要望をRFPに盛込みましょう。
RFP作成のまとめ
ECサイトを構築する目的やゴールを明確にし、やりたいことや、必要な機能の優先順位を整理することで見積の精度が高まり、開発コストの追加やスケジュールの延期が少なくなります。
RFP作成の目次例
- ▼プロジェクト概要
- ├背景と目的
- ├目標売上
- ├予算
- ├スケジュール
- └スコープ
- ├機能要件
- ├非機能要件
- ├連携ツール
- └データ移行
- ▼提案依頼事項
- ├成果物
- ├開発環境
- ├運用保守体制
- └教育体制
システム選びで失敗しないための「ベンダー比較表」のチェックポイント
次に、ECサイト構築システムのベンダー候補を絞り込むための「ベンダー比較表」の作り方を解説します。
システムを比較するときは当然機能を比較しますが、機能の他にも重要な比較項目はたくさんあります。
例えば、「サイト構築後の保守やサポート」「システムのセキュリティ」「ベンダーの経営体力」などは非常に重要なポイントです。また、「システムの拡張性」や「システムを改修・カスタマイズする開発リソース」も必ず確認する必要があります。
ECサイトは構築してからが本番ですから、後々になって「こんなはずではなかった」と後悔しないために、長期的な視点でベンダーを比較してください。
▼ベンダー比較表に盛り込む主な判断軸
比較項目 | |
---|---|
機能面 | 集客/プロモーションの機能 |
受注管理/在庫管理の機能 | |
商品管理の機能 | |
CMSの機能 | |
購買分析/アクセス解析の機能 | |
決済機能 | |
出荷/配送管理の機能 | |
管理画面の操作性 | |
ローカライズ(海外製品の場合) | |
拡張性 | 機能カスタマイズの可否および範囲 |
外部ツールとの連携の可否 | |
物流システムとの連携の可否 | |
基幹システムとの連携の可否 | |
実店舗との連携の可否 | |
他サイトとの在庫連携の可否 | |
企業の評価 | 事業規模/経営体力 |
開発スタッフの人数 | |
ECサイト構築の実績 | |
自社と同業種の構築事例はあるか | |
EC事業への理解度は十分か | |
開発リソースは十分に確保されているか | |
サイト構築後の運用業務を任せられるか | |
サーバ構築・運用を任せられるか | |
サポート/保守 | システムの保守・サポートの範囲 |
システムの保守・サポートの費用 | |
データ移行の可否 | |
問い合わせ方法(電話/メール/チャット) | |
バージョンアップの有無 | |
システム改修の条件や費用 | |
システムの保守や改修における開発リソース | |
サーバの保守・管理 | |
提案力・対応力 | 営業担当者の提案力 |
構築/システム導入までの期間 | |
業務設計のサポート | |
費用 | 初期費用/構築費用 |
運用代行費用 | |
年間の保守費用 | |
トラフィックや会員数、商品点数などの従量課金 | |
サポート費用 | |
ライセンス料 | |
サーバ費用 | |
セキュリティ | PCI DSS |
サーバ監視の体制 | |
サーバの安定稼働 | |
SQLインジェクション対策 | |
クロスサイトスクリプティング対策 |
サイト構築後の保守やサポートの範囲を必ず確認
ECサイトの運用を開始してから、システムの保守やサポートをベンダーがどのようにおこなうのか、契約前に確認しておく必要があります。
システムに不具合が発生したときの原因究明や復旧作業、サーバの監視、データのバックアップなど、サービスの対象範囲を具体的に確認してください。
サードパーティアプリの不具合はサポート対象外の場合も
ECサイト構築システムの中には、サードパーティ(システムベンダー以外の開発者)が作ったアプリをEC事業者が任意で追加できる製品もあります。こうした製品は機能をカスタマイズできるため便利ですが、リスクもあるため注意が必要です。
サードパーティのアプリが原因でネットショップに障害が発生した場合、製品そのものの不具合ではないため、ベンダーのサポート対象外であることも少なくありません。そうなるとEC事業者は自力で復旧する必要があります。
もしアプリの開発元が外国の場合には、外国語で問い合わせる必要があるため復旧作業に苦労するでしょう。サードパーティのアプリを実装できるECサイト構築システムはメリットもありますが、サポートのリスクがあることも認識しておいてください。
アプリケーションやサーバのセキュリティは信頼できるか
アプリケーションやサーバのセキュリティはECサイト構築システムを選ぶときの重要な判断軸です。サーバの監視体制は整っているか、SQLインジェクション対策を行なっているかなどを確認してください。
また、セールなどでECサイトにアクセスが集中したとき、サーバが落ちれば大きな機会損失になります。サーバの管理をベンダーに任せる場合には、サーバの安定性も確認しておきましょう。
用語解説「PCI DSS」とは?
なお、日本政府は、クレジットカード決済を行うEC事業者(加盟店)に対して「カード情報の非保持化」または「PCI DSSの準拠」を求めている。
サーバ管理まで自社で行っているベンダーを選ぶ
ベンダーが自社でインフラ(サーバ)の管理や運用を行っていると、システム障害などが発生したときに復旧作業が比較的迅速に進むメリットがあります。
ECサイト構築システムを提供しているベンダーと、インフラ(サーバ)を管理している会社が異なると、ECサイトにトラブルが発生したとき、状況把握のための情報共有や、その後の原因追記において企業同士のやり取りに時間がかかり、トラブルを解決するまでに時間がかかることがあります。
ECサイトにトラブルが発生したときのベンダーの対応の早さは、ECサイトの売上にも影響する重要なポイントです。ベンダーがサーバ管理まで行なっているか否かを、ベンダー選びにおける比較項目に入れておくと良いでしょう。
海外製品はサポートやローカライズ化を確認
海外製のECサイト構築システムを使う場合には、いくつかの注意点があります。
1つ目は「サポートの体制」です。日本語の問い合わせ窓口があるかどうかは最低限確認してください。また、質問に対する回答が本国から返ってくるまでに時間がかかると、ネットショップの運営に支障をきたしかねません。問い合わせへの対応の早さも確認しておきましょう。
2つ目の注意点は「機能のローカライズ」です。
例えば、コンビニ払いや代引き、定期購入といったサービスは日本では一般的ですが、国によってはあまり使われておらず、海外製品の中にはそれらの機能が標準で備わっていないこともあります。
また、入力フォームの日付欄が「日・月・年」の順番で並んでいたり、名前の入力欄が「名・姓」の順番だったりすると、日本の消費者は違和感を感じるかもしれません。些細なことですが、ショップに対する印象を左右する可能性もありますので、考慮しておくと良いでしょう。
そして3つ目の注意点は、利用規約や契約書・約款を確認しておくことです。日本人の感覚で「これくらい大丈夫だろう」と思ったことが規約違反になる場合もあるので注意しましょう。
ベンダー選びには経営者が積極的に関与することも必要
ECサイト構築システムを選ぶときの判断基準は、EC事業者の実現したいことや、必要な機能の優先順位によって異なります。
ECサイトを作る目的は何か、どの機能を優先するのか、予算や開発期間はどれくらい確保できるのか、また、将来的に実現したいことは何か。こうしたさまざまなことを社内で議論することで、自社にとって最適なECサイト構築システムが見えてきます。
「ECで何を実現したいのか」は経営戦略に密接に関わることですから、EC部門の担当者だけで決められるものではありません。実店舗を持つ企業であれば、会員情報や品揃えなど店舗とECの連携を考える必要があるでしょう。メーカーがECに参入する場合は、直販のマーケティングやCRMの仕組みを導入するなど、ビジネスモデルの再検討が必要な場合もあります。
また、ECサイトの使い勝手が悪く、サービスが行き届いていないと、消費者はその会社やブランドに対して悪い印象を抱くでしょう。ECサイトは企業のブランドイメージにも影響する可能性があることも踏まえ、ECサイト構築システムを選定する際は、経営陣も積極的に関与することが重要ではないでしょうか。
ベンダー比較表作成のまとめ
この記事の比較項目表を参考に、以下の観点に注意してEC構築ベンダーを比較しましょう。
- サイト構築後の保守やサポートの範囲
- アプリケーションやサーバのセキュリティの信頼性
- 海外製品はサポートやローカライズ
- ベンダー選びには経営者も巻き込む
RFPとベンダー比較表を活用して納得のいくベンダー選びを
今回は「提案依頼書(RFP)作成」のポイントと「ベンダー比較表」のチェックポイントについて解説しました。
近年、さまざまなECサイト構築システムが登場し、情報も氾濫しています。表面的な情報や評判だけでなく、自社にとって本当に必要なシステムを冷静に判断することが大切です。満足の行くECサイト構築のために、この記事で解説したRFPの作り方やベンダー選びのポイントを参考にしてみてください。