実店舗を持つ企業がECを手がけることが当たり前になった現在、次のフェーズとして実店舗と自社ECサイトを連携し、買い物体験の向上を目指す企業が増えています。
一方で、「ECと実店舗を連携して一体的に運営したいが、具体的に何をすれば良いかわからない」「連携することでどのようなサービスを実現できるのかイメージしにくい」といった課題を感じている方も多いようです。
そこで本記事では、ECと実店舗を連携するメリットや実現できる施策、システム選びの注意点などを解説します。オムニチャネルも見据えて、ECと実店舗の連携を進める際の参考にしてください。
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「ECと実店舗の連携」とは具体的にどのような取り組みなのか?
ECと実店舗の連携とは、具体的にどのような取り組みを指すのでしょうか。代表的なものとして「会員情報の統合」「在庫の一元化」「サービスの融合」「購買データの活用」があります。
例えば、ECと実店舗の会員情報を統合し、ポイントを共通化することで、どちらのチャネルで購入してもポイントを獲得・利用できるような仕組みにできます。また、在庫データを一元化し、ECで購入したものを「店舗受取」や「取り置き」といったサービスを提供することも可能です。こうした取り組みを通じて買い物体験(カスタマーエクスペリエンス)の向上が図れるでしょう。具体的な施策やサービスについては、第2章の「ECと実店舗の連携の具体例(施策・サービス)」で解説します。
ECと実店舗を連携するメリット
ECと実店舗を連携すると、顧客にとって便利なさまざまなサービスが実現可能となり、買い物体験が向上します。また、店頭で商品を気に入っていただいたものの、遠方にお住まいなどの理由で来店機会がなかなか得られない顧客のために、ECサービスを提供することで販売機会損失を防ぐことができます。その他にもECと実店舗のデータを活用してOne to Oneマーケティングを実施できるなどのメリットもあります。
【ECと実店舗を連携するメリット】
- ・買い物体験が向上する
- ・機会損失を軽減できる
- ・データを活用した一体的なマーケティングを行える
ECと実店舗の連携が進んでいる背景
近年、ECと実店舗を連携する企業が増えている理由の一つは、オムニチャネルの有効性が高まっているためです。
オムニチャネルとは、あらゆる販売チャネルが連携し、一貫性のある購買体験を顧客に提供するビジネスモデルのことです。日本では2012年前後から本格的に広がり始めました。オムニチャネルを実現するには、その前提としてECと実店舗の会員情報や在庫データを一元化するなど、販売チャネルが異なったとしても顧客が同一のサービスを受けられるよう仕組みを共通化する必要があります。
スマートフォンの普及にともない、オンラインとオフラインを自由に行き来しながら買い物をする消費者が増えました。そういった新しい消費スタイルに対応するために、多くの企業がオムニチャネルを意識するようになり、結果としてECと実店舗の連携を進める動きが広がっています。
ECと実店舗の連携の具体例(施策・サービス)
ECと実店舗が連携すると、さまざまなサービスや施策を実現できます。代表的な10個の取り組みについて、メリットや実現方法を解説します。自社のECビジネスと照らし合わせ、実務をイメージしながら読み進めてください。
【施策・サービスの例】
- 1.会員情報の統合
- 2.ポイント共通化
- 3.ECサイトの「店舗受取」
- 4.ECサイトの「店舗在庫表示」
- 5.店舗在庫の「取り寄せ」や「取り置き」
- 6.実店舗にない商品をオンラインで発注し、顧客に直送
- 7.ECサイトの返品を実店舗で対応
- 8.ECと実店舗間での相互送客
- 9.データを活用した、顧客とのタッチポイント強化
- 10.店舗スタッフがECでも活躍
1.会員情報の統合
ECと実店舗の会員情報を統合し、一人の顧客を一つのIDで管理すると、ECと実店舗間での相互送客など、さまざまなマーケティング施策やCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)を実施することができます。
例えば、EC会員に対して実店舗のセール情報や店舗限定クーポンをメルマガなどで配信し、来店を促進するといった施策です。
ECと実店舗の会員情報がバラバラに管理されていると、実店舗のリピーターに対してECサイトで新規顧客向けの商品をレコメンドするなど、チグハグな接客になりかねません。顧客体験の低下を避けるためにも、会員情報の統合は重要です。
会員情報の統合を実現するには、ECと実店舗の会員情報を名寄せし、一元化された会員データベースを作るといった方法があります。
2.ポイントの共通化
ECと実店舗のポイントを共通化すると、どちらのチャネルで買い物をしてもポイントが貯まるため、顧客にとってメリットがあり、ECと実店舗を併用する顧客の購買促進につながることが期待できます。
また、ECと実店舗の両方を使う顧客は、どちらかのチャネルのみを利用する顧客と比べてエンゲージメントが高いと考えられます。ポイントを共通化することで優良顧客とのつながりが一層強まり、顧客のロイヤル化にもつながるため、LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)の向上が期待できます。
ECと実店舗のポイントを共通化するには、ECシステムをカスタマイズして対応する方法や、汎用的なポイント連携システムを導入する方法などがあります。
3.ECサイトの「店舗受取」
ECサイトで買った商品を実店舗で受け取る「店舗受取」は、ECの利便性向上につながる重要なサービスです。顧客は仕事帰りや買い物のついでなど、好きなタイミングで商品を受け取ることができ、さらに多くの場合で送料の負担を気にする必要がありません。
企業側の視点に立つと、ECサイトの顧客に実店舗にも足を運んでもらえることが店舗受取のメリットです。実店舗での「ついで買い」が期待できますし、商品を渡す際に店舗スタッフによる接客を通じて、対面でのコミュニケーションが生まれるため、アップセルも期待できるでしょう。
店舗受取を実現する方法は、ECサイトの配送方法に「店舗受取」の選択肢を加え、受注後にEC倉庫から実店舗に商品を送るといったフローが考えられます。店舗受取を導入する際には在庫の引き当てや商品準備完了時のお客様への連絡方法など、受注時から顧客の手元に届くまでECシステム変更だけに限らず、業務フローも新たに検討する必要があるでしょう。
4.ECサイトの「店舗在庫表示」
店舗在庫の有無や在庫の残数をECサイトの商品ページに表示すると、商品を確実に買いたい消費者の来店を促進することができます。また、「せっかくお店に買いに行ったのに、商品が売れ切れていた」という残念な買い物体験を防ぐこともできます。
店舗在庫をECサイトに表示するには、店舗の在庫管理システムとEC、または、倉庫管理システムとECとを連携するといった方法があります。
5.店舗在庫の「取り寄せ」や「取り置き」
実店舗の在庫を確保しておく「取り置き」や、在庫を好きな店舗に取り寄せる「取り寄せ」といったサービスをECサイトに実装する企業も出てきています。試着ニーズがあるアパレルや、ブランドバッグ、ジュエリー、高級腕時計といった高額商品などで特に利用されているようです。
「取り置き」や「取り寄せ」を実現するには、店舗受取と同様に、受注後に商品をEC倉庫から実店舗へ送るか、ECサイトの受注データを店舗在庫に引き当てるのが一般的です。
6.実店舗にない商品をオンラインで発注し、顧客に直送
顧客が実店舗を訪れた際に、目当ての商品がその店舗では売り切れていて、EC倉庫には在庫が残っているというケースは少なくありません。そういった場合に、接客にあたった店舗スタッフがタブレット端末などを使って発注(EC在庫に引き当て)し、商品をEC倉庫から顧客の自宅に直送するサービスもあります。
こうした仕組みを導入すると、在庫の偏在による機会損失を防ぐことができます。特に、アパレルのようにSKU(Stock Keeping Unit:最小管理単位)が多く商品サイクルが早い商材は、店舗ごとの在庫の偏りによって機会損失が発生しやすいため、実店舗でEC在庫を販売できることのメリットは大きいでしょう。
ただし、実店舗の売上がECに流れてしまうと、店舗スタッフのモチベーションが下がってしまう可能性があります。その対策としては、商品代金の支払いは実店舗で行い、実店舗の売上高として計上することで、店舗スタッフのモチベーション低下を避けることができます。
7.ECサイトの返品を実店舗で対応
全国展開しているアパレルチェーンなどは、ECサイトで買った商品の返品を実店舗でも受け付けるケースもあります。実店舗で返品を受け付けることで、サイズ違いであれば異なるサイズを試着してもらったり、イメージとは異なるようであれば実際の商品からイメージに合うものを選んでもらったりするなどもできるでしょう。実店舗での接客によるアップセルも期待できます。
8.ECと実店舗間での相互送客
ECと実店舗の会員情報を統合すると、ECと実店舗間での相互送客を行うことも可能になります。
例えば、店舗スタッフが接客中にECサイトを紹介することで、実店舗しか使っていなかった顧客をECサイトへ誘導することができます。時間や距離の制限がなく、手軽にアクセスできるECで顧客との接触頻度を増やすことができます。
あるいは、EC会員に対して実店舗のセール情報や店舗限定クーポンを配信し、実店舗への来店を促進するといった施策も可能です。
ECと実店舗間での相互送客を行う際に、顧客とのコミュニケーション手段として自社アプリを活用するケースも増えてきました。相互送客をさらに促進したい企業は、クーポンや新商品、ニュース、イベント情報、会員証など、ECと実店舗の情報をアプリに集約して顧客に届けるのも一つの方法です。
9.データを活用した、顧客とのタッチポイント強化
ECと実店舗の購買データを活用すると、オンラインとオフラインの垣根を越えたマーケティングに活用できます。例えば、実店舗で買った商品と相性の良い商品をECサイト上でレコメンドするといった施策です。あるいは、アパレルブランドの店舗スタッフが常連客を接客する際に、その顧客のECサイトでの購入履歴を見てコーディネートを提案するなど、ECの購買データを店舗での接客に活かすことも可能でしょう。
10.店舗スタッフがECでも活躍
ECと実店舗の連携において、店舗スタッフがECでも活躍できるようにすることが重要です。例えば、アパレルの店舗スタッフが商品を着用し、コーディネート写真をECサイトに投稿する。また、ライブコマースに出演して視聴者をECサイトに誘導する。あるいは、化粧品の販売員がビデオ通話ツールを使ってオンラインカウンセリングを行う。このように、店舗スタッフがECの販促にも貢献する取り組みが急速に広がっています。
ECと実店舗の連携を考える際、システムの連携に目が行きがちですが、接客や販促においては店舗スタッフの力を引き出すことも重要なポイントになるでしょう。
ECと実店舗の連携における注意点
ECと実店舗のデータを連携するには、ECシステム側のカスタマイズや追加開発が必要になるほか、業務フローの設計や人事評価の見直しといった社内改革も必要です。ECと実店舗の連携における主な注意点を解説します。
システム開発を含む大規模プロジェクトになる
ECと実店舗の連携を実現することで、さまざまな施策を打つことができ、消費者に対して大きなメリットを提供できます。その結果、他社との差別化を実現できることでしょう。
一方、その過程では、多くのシステム開発が発生します。一般的には次のようなシステムの開発や導入が必要です。
- ・実店舗の会員証をスマートフォンでも表示できる機能
- ・ECと実店舗の会員情報を一元管理するデータベース
- ・ECと実店舗の在庫データを一元化する在庫管理システム
- ・店舗スタッフが使うオンライン発注システム
- ・店舗受取や取り置きなどの機能を実装したECサイト
- ・基幹システムとECシステムの連携
- ・倉庫管理システムとECシステムの連携
こうした開発は数年がかりのプロジェクトになることも珍しくありません。また、業種業態や、運営している店舗数、商品単価などによってECと実店舗を連携した際に得られる企業側のメリットの大小は変化します。そのため、一度に全てのシステム開発を実行するのではなく、段階的に進めていく計画性が求められます。
このような大規模プロジェクトを遂行するには、多くの部署が関わることになります。そのため、経営陣もプロジェクトに参画し、組織的に進行することが重要です。
店舗スタッフの協力が不可欠
ECと実店舗の連携を成功させるには、店舗スタッフの協力も欠かせません。「ECに売上を取られた」「ECに貢献しても評価されない」といった不満を店舗スタッフが感じるようでは、ECと実店舗の連携は進みにくいでしょう。
店舗スタッフのモチベーションを上げるには、ECへの貢献度を人事評価に反映することが重要です。具体的には次のような方法があります。
店舗スタッフの評価方法
- ●店舗スタッフがECサイトに投稿したコーディネート経由で商品が売れたら、販売金額などに応じてスタッフの給与に反映する
- ●ライブコマースの出演回数に応じて手当を支払う
- ●実店舗にない商品をオンラインで発注して販売した場合は、実店舗の売上高として計上する
結論:スモールスタートでできることから始める
ECと実店舗の連携を一気に完成させようとすると、やるべきことが山積みになり、何から手をつけて良いかわからず最初の一歩を踏み出しにくくなります。「最初に何をすれば良いか分からない」と悩んでいる方は、まずはスモールスタートで始めることをおすすめします。
ECと実店舗の連携を段階的に進めていく計画を立てると、最初の一歩を踏み出しやすくなります。複数のブランドや複数の実店舗を持つ企業であれば、まずはブランドや店舗を限定して試験的に始めてみるのも良いでしょう。例えば、次のようなステップで進めると着手しやすいでしょう。
- 1 実店舗の会員証をECサイトの会員データと紐づける。同時に、ECと実店舗のポイントを共通化する。
- 2 ECと実店舗の会員情報や購買データをマーケティング施策に活用し、相互送客を行う。
- 3 EC在庫を活用し、ECサイトに「店舗受取」や「取り置き」を導入する。実店舗にない商品を店舗スタッフがオンラインで発注し、顧客に直送できるようにする。
- 4 ECと実店舗の在庫データを連携し、各店舗の在庫をECサイトに表示することや、「店舗受取」や「取り置き」の受注データを店舗在庫に引き当てるようにする。
ECと実店舗の連携に成功した百貨店の事例
弊社アイテック阪急阪神のECパッケージ「HIT-MALL」によって、ECと実店舗の連携に成功した企業の事例を紹介します。
宮城県を中心に東北各地区で地域密着型の百貨店を展開している株式会社藤崎様は、公式オンラインショップ「FUJISAKI online」を2021年10月にリニューアルオープンした際、会員情報をECと実店舗で統合しました。ECと実店舗を横断してポイントを利用できるなど、利便性向上につながるサービスも取り入れました。
さらに、ECと実店舗の受注データを連携し、ハウスカード会員と実店舗、ECサイトの会員属性や購入履歴を活用した販促施策も実施しています。
ECと実店舗間での相互送客などを行った結果、リニューアル後の2021年の年末商戦では売上高・受注件数ともに大幅に拡大。おせちの売上高は前年比140%、クリスマスケーキは前年比180%という大きな成果を上げました。
また、ECと実店舗の両方を利用する顧客は購買意欲が高い傾向にあり、実店舗のみ、ECのみのように単一のチャネルのみを利用する顧客と比べて年間購入金額が1.8倍になっています。
宮城・東北一円に会員を持つ強みを活かしながら、ECサイトを活用して広域の顧客にアプローチする、独自のオムニチャネルを推進しています。
FUJISAKI online|藤崎様
"ECサイトのリニューアルにより、品揃えの充実だけでなく、ECと実店舗を横断してポイントを利用できるなど、デジタルカスタマーにとっての利便性も向上しました。"
》事例インタビューを読む
ECシステムはカスタマイズ可能なECパッケージがおすすめ
ECと実店舗の連携を成功させるには、ECシステムの選定も重要です。
基幹システムや倉庫管理システムなどの外部システムとECシステムを連携する必要があるため、個別カスタマイズが不可能なECシステムでは、スムーズなデータ連携は難しく、業務フローに手作業が入ってしまうなど多くの課題が生じます。
例えば、カスタマイズできないASPやクラウド型のECシステムを使用している場合、基幹システムなどとのデータの自動連携を実現できずに、ECと実店舗間での相互送客を行いにくく、チャネルをまたいだ施策も打てないなど、オムニチャネル化が難しくなる可能性があります。
また、ECシステムをフルスクラッチで開発する選択肢もありますが、莫大なコストがかかる上、変化のスピードが早い昨今のEC市場においてフルスクラッチ開発は機能の陳腐化を招くリスクもあります。
ECと実店舗を連携するには、ECサイトを運営するにあたって必要な基本機能を備え、かつ、カスタマイズが可能なECパッケージを利用すると良いでしょう。
まとめ
実店舗を持つ企業がECサイトと店舗を連携する取り組みは、日本では2012年前後から目立ち始めました。スマートフォンの普及に伴い、買い物においてリアルとネットの垣根が曖昧になる中で、オムニチャネルに注目が集まったことが要因です。とはいえ、実際にECと実店舗を連携した企業は一部に限られていました。
しかし、2020年春以降のコロナ禍で、実店舗への客足が減ったことを受け、アパレルや化粧品、インテリアなどさまざまな商材でECと実店舗の連携が加速しました。オムニチャネルは大企業に限ったものではなくなり、数店舗を運営している小売店がECと実店舗のポイントを共通化するなど、企業の規模を問わずECと実店舗の連携が進んでいます。
経済産業省が公開した報告書「令和4年度デジタル取引環境整備事業(電子商取引に関する市場調査)」によると、2022年における国内の物販EC市場は前年比5.37%増の13兆9997億円に拡大し、EC化率は9.13%に上昇しました。買い物のデジタル化が進む中で、これまで実店舗を中心にビジネスを行ってきた企業がECの成長力を取り込むために、ECと実店舗の連携を急いでいます。
なお、2022年の国内EC市場では、物販EC市場の約56%を占めるスマートフォンECの成長率が前年比12.9%増と続伸した一方で、PCを中心とする物販EC市場はマイナス成長になりました。スマートフォンECが拡大しているということは、場所や時間にとらわれずに買い物をする消費者がますます増えていることを意味します。こうした新しい消費スタイルに対応していくために、ECと実店舗を連携することの重要性は、一層高まっていると言えるのではないでしょうか。
ECと実店舗を連携すると、機会損失の軽減やオンラインとオフラインの垣根を越えたマーケティングの実現など、企業にとって多くのメリットがあります。そして何より、買い物体験が向上し、顧客のエンゲージメント強化が期待できます。ECと実店舗が連携することによる「優れた買い物体験」が競争優位になるでしょう。
もし、ECと実店舗の連携を計画されているようでしたら、弊社、アイテック阪急阪神までお問い合わせください。