ECサイト構築システムには「ASPカート」、「ECパッケージ」などいくつかのタイプがあり、初期の構築費用や構築にかかる期間、機能の種類、カスタマイズの自由度などが異なります。
自社ECサイトで売上を伸ばすには、商材やビジネスモデルに合ったECシステムを選ぶことが重要です。ECシステムの選び方次第で、EC事業の成長速度が大きく変わると言っても過言ではありません。
「値段の安いシステムを選んだら、自社の業務に合わせたカスタマイズをすることができず、やりたいことが実現できなかった」といった失敗を避けるためにも、どのシステムが自社にとってベストか、十分に比較・検討することが大切です。
今回は、自社ECサイトを立ち上げる際によく使われる「ASPカート」と「ECパッケージ」のメリット・デメリットを解説するとともに、ECシステムを選ぶ際のポイントをお伝えします。
5つのECサイト構築方法を比較
ネットショップを立ち上げるには、「ECモールに出店する」か「自社ECサイトを構築する」という2つの方法があります。
ECモールは楽天市場やアマゾン、Yahoo!ショッピング、PayPayモール、ZOZOTOWN、wowma!などが代表的。こうしたECモールに出店すれば、そのモールのカート(決済機能)や販売管理機能を利用できるため、短期間でネットショップをオープンできます。
ECモールに出店せず、自社ECサイトを構築する場合、主に3つの方法があります。
1つ目は、ECサイトを完全オリジナルで構築する「フルスクラッチ」。2つ目は、ECサイトのシステム基盤や基本機能がパッケージ化された「ECパッケージ」を使って構築する方法。そして3つ目は、クラウドで提供されている「ASPカート」を使う方法です。
近年、自社ECサイトを構築する際は「ASPカート」と「ECパッケージ」が多く使われます。そこで今回は、「ASPカート」と「ECパッケージ」に絞って、それぞれの特徴とシステム選びのポイントを解説します。

「ASPカート」のメリットは低予算で自社ECサイトを構築できる
「ASPカート」は、ネットショップの構築・運用に必要な機能がクラウドで提供されるプラットフォームです。
ECサイトのフロント機能やカート(決済)機能、販売管理機能などが一通りそろっているため、個別に機能開発を行うことなくネットショップを構築できます。ASPは「Application Service Provider」の略です。
主な製品には「CARTSTAR」「カラーミーショップ」「shopify」「ショップサーブ」「MakeShop」「futureshop」(50音順)などがあります。
ASPカートの特徴
- メリット
- 比較的安価・短期間にECサイトを構築できる。
- デメリット
- 機能やカスタマイズに制限がある。
メリット
安価・短期間でECサイトを開設
「ASPカート」のメリットは、初期費用を抑えてネットショップを開設できること。月額費用は製品によって異なりますが、月1万〜10万円ほどが一般的です。トラフィックに応じた従量課金制や、売上高の一定料率を利用料として徴収する製品もあります。
ネットショップの構築期間は1~3カ月ほどが目安。フルスクラッチやECパッケージを使って構築する場合と比べて期間は短いです。
また、「ASPカート」の中には機能が随時アップデートされる製品もあります。そういった製品では提供元の企業がシステムをアップデートするたびに、ネットショップは最新の機能を使うことができます。
デメリット
機能の種類やカスタマイズには制限あり
「ASPカート」のデメリットは、機能の種類が限られることです。複数のネットショップが1つのプラットフォームを共有するため、多くのショップが必要とする機能を優先して実装せざるを得ません。
また、基本的には個別にカスタマイズを行うことが出来ませんから、売り方が複雑で、個別機能の実装が必要なジャンルには不向きです。
システム選びのポイント
契約前にサポート体制やアップデートの頻度を調べる
「ASPカート」はさまざまな製品があり、月額費用や機能の種類は千差万別。リピート通販に特化した製品などもあり、自社のビジネスモデルに合ったものを選ぶ必要があります。
システム選びで注意すべきことは、費用や機能だけで選ぶと失敗しやすいこと。機能を使いこなすために質問できる窓口(カスタマーサポート部署)があるかどうかや、機能のアップデートの頻度、サーバの強度、システムメンテナンスの体制なども契約前にしっかり調べておきましょう。
「ECパッケージ」のメリットはECサイト構築の自由度の高さ
「ECパッケージ」は、ECに必要なシステム基盤や機能をパッケージ化したソフトウェアです。導入企業ごとにカスタマイズできる製品が多く、ビジネスモデルに合わせて機能を実装することが可能。独自のサービスをユーザーに提供し、ライバル企業と差別化できます。
主な製品には「EC-ORANGE」「ecbeing」「Commerce21」「HIT-MALL」(50音順)などがあります。
初期の構築費用が数千万円に上るなど、大きな投資を必要としますが、EC事業を本気で成長させたい企業は「ECパッケージ」を選ぶ傾向にあるようです。また、EC事業の売上が伸びるにつれ、「ASPカート」の機能では物足りなくなった企業が「ECパッケージ」に乗り換える(リプレイスする)ケースも目立ちます。
ECパッケージの特徴
- メリット
- カスタマイズの自由度が高い。独自の機能で、きめ細かいサービスを提供することが可能。
- デメリット
- 初期の構築費用やカスタマイズ費用がかさむ。
メリット
カスタマイズで「独自の機能」や「きめ細かいサービス」を実現
「ECパッケージ」の最大のメリットは、カスタマイズの自由度が高く、ショップ独自の機能を実装できることです。実店舗とECのポイントや在庫を共通化して「オムニチャネル」を推進したり、のし・名入れ・包装の設定を必要とする「ギフトEC」を実現したりするには、「ECパッケージ」が向いています。
EC市場が成熟し、競争が激しさを増している現在、自社ECサイトの売り上げを伸ばすにはきめ細かいサービスを提供することが欠かせません。
ユーザー目線のサービスを実現するには、システム開発を伴うことが多いですから、「妥協せずに、最高のサービスを提供したい」という企業には「ECパッケージ」が向いているでしょう。
デメリット
初期投資が数千万円に上ることもある
「ECパッケージ」はシステム導入時の費用が「ASPカート」よりも高額になります。標準パッケージを導入するだけで300万~500万円ほどが一般的。カスタマイズを加えると2000万円以上かかることも珍しくありません。
初期投資が大きいため、ECの月商が200万~300万円ほどのネットショップでは、投資に見合った効果が得られないでしょう。ECの年商1億円以上が目安になると思います。
ただ、ECサイトを完全オリジナルで構築する「フルスクラッチ」に比べると、「ECパッケージ」の初期投資は安く抑えられることが多いです。
システム選びのポイント
システム提供会社の「カスタマイズの技術力」で選ぶ
「ECパッケージ」を選ぶ際のポイントは、システム提供会社の「技術力(開発力)」にあります。「ECパッケージ」のメリットはカスタマイズを行えることですから、安心して開発を任せられる会社かどうか、しっかり見極めてください。
技術力を判断する目安として、導入事例を調べると良いでしょう。システム提供会社のWEBサイトなどに事例が公開されていることも多いので、リサーチしてみてください。
「ECパッケージ」の中には、カスタマイズを行えると宣伝しているにも関わらず、意図した通りのカスタマイズができなかったり、割高なカスタマイズ費用を請求されたりするケースもあるようです。そういった失敗を避けるために、システムを導入している企業に直接感想を聞いてみるのも良いのではないでしょうか。
また、システムの提供会社が倒産したり、事業から撤退したりして、サポートが終了してしまうリスクもあります。これは「ECパッケージ」に限りませんが、システムの提供会社の経営基盤も判断基準の1つにしてください。
成長フェーズに合わせてECシステムを見直すべき理由
ECを新たに始める企業は、初期費用が安い「ASPカート」を選ぶことが圧倒的に多いです。売上規模が小さいうちは、それで問題ないと思います。
しかし、年商1億円規模まで成長すると、機能やカスタマイズに制限があることが成長のボトルネックになることがあります。きめ細かいサービスを提供するために、独自の機能が必要になることもあるでしょう。
せっかく事業が成長しているのに、システムがボトルネックとなって成長が止まってしまうのは、とてももったいないことです。EC事業の新規立ち上げ~年商1億円程度までは「ASPカート」を使い、さらなる成長を目指すなら「ECパッケージ」へ移行するなど、EC事業の成長フェーズに合わせて使い分けることが必要でしょう。
より詳しいECシステムのメリット・デメリットの解説は「ECサイト構築システムの比較と選び方」を参考にしてください。
切れ目なくリプレイスできるECシステムを選ぶ
成長フェーズに合わせて「ASPカート」と「ECパッケージ」を使い分けるには、ECシステムの移行(リプレイス)が必要です。
その際、顧客データや購買データ、商品データなど、膨大なデータを新しいシステムに移行する必要があり、移行作業だけで数カ月かかることも珍しくありません。
また、ECシステムを変更することで、社内の運用フローを見直す必要が出てきます。決済やレコメンド、倉庫システム(WMS)など外部ツールと連携している場合には、ECシステムを移行する際にサードベンダーとの調整も必要になるでしょう。
さらには、ECサイトのデザインや仕様が変わると、ユーザーインターフェースも変わってしまい、従来のECサイトに慣れたお客さまの利便性が損なわれる可能性もあります。
このように、ECシステムをリプレイスする際は多くの課題が発生します。そのため、既存のECシステムに多少の不満があっても、我慢して使い続けているというEC事業者さまも多いのではないでしょうか。
既存のECシステムのリプレイス時に考慮すべきことやベンダーの選び方は「ECサイトの移行におけるシステムベンダー選びのチェックポイント」も参考にしてください。
ASPからパッケージへ移行可能なシステムも登場
近年、EC業界では「ASP(クラウド型)」から「ECパッケージ」へとシームレスに移行できるECシステムが、少しずつではありますが登場しています。そういったECシステムは、リプレイスに伴うデータ移行やサーバの乗り換え、運用フローの見直しを行う必要がありません。
これまで、ECシステムをリプレイスしにくいことが、EC業界における大きな課題でした。しかし、「ASP(クラウド型)」から「ECパッケージ」へシームレスに移行できるシステムが登場したことで、今後は成長フェーズに合わせてシステムをリプレイスすることを想定し、「リプレイスしやすいECシステム」を選ぶことも選択肢の1つになるのではないでしょうか。
■ASP(クラウド版)からパッケージへの乗り換えイメージ

アイテック阪急阪神の「HIT-MALL」もASP(クラウド型)からECパッケージへシームレスに移行できるECシステムの一つです。HIT-MALLのクラウド版からECパッケージへのデータ移行やサーバの乗り換えは不要で、ECサイトのデザインも変わらないためユーザーの利便性が下がることもありません。
「スモールスタートでASPで立ち上げ、将来的にパッケージに乗り換える想定でECサイトを立ち上げたい」という考えをお持ちの場合には、こうしたECシステムを選定基準に含めるとよいでしょう。
機能だけに頼らず「運用でカバーする」という視点を持つ
ECのサービスを向上させる上で、機能だけに頼らず、運用でカバーすることも重要です。
ECシステムのカスタマイズするには標準機能に上乗せして費用がかかるため、本当に必要な機能に絞って開発を行うことになるでしょう。もし運用の見直しや工夫によってECシステムが不要になるのであれば、業務フローをECシステムに合わせていくという考え方も一つです。
「ECサイト運営担当が知っておきたい運用業務の全体像」も参考に、自社でECを運営する場合の業務範囲の全体像を把握し、コンテンツ制作、プロモーション、商品登録、受注管理、物流の各ECサイト運営業務の中で、それぞれ運用でカバーできる範囲とシステム必須の範囲に分類し、システム要件に含めるか否かを判断すると、開発コスト・開発期間ともに抑えられるでしょう。
業務フローを見直す際、社内で対応が難しい場合は、必要に応じてアウトソーシングを活用するのも良いでしょう。システム提供会社の中には、運用のサポートまで行っているケースもあります。業務フローの見直しや、運用のサポートまで相談できるシステム会社を選ぶことも、ECシステム選びのポイントかもしれません。
運用のサポートを相談する際は「人材不足やスキル不足を解消!EC運営代行の選び方」も参考にしてください。